大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)30号 判決

原告らの主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 本願発明の構成上の特徴について

原告らは、「本願発明においては、水平移動に導くための案内面は唯一つである」と主張し、被告はこれを争つているのであるが、この争いは詰るところ「案内面」の解釈に由来するものである。一般に、「案内面」とは、物が移動する際に、その物を導くための面と解されるから、二つの物体が互に接触した状態で移動する場合の案内面といえば、この移動する物体間で互に接触している面のことを指し、物体はこの面に沿つて移動すると共に、この面によつて運動の方向が規制されることとなる。

これを、工作機械におけるテーブルの案内面についてみれば、移動すべきテーブルが静止しているヘツド又はスタンドなどに対して接触している部分が案内面であり、テーブルはこの接触面に支持され、かつ、この面に沿つて移動し、その移動方向が規制されるものと解される。

したがつて、「案内面」と、荷重などの重力を負担するかどうかということとは直接関係のないことである。

そこで、本願発明についてみるに、成立に争いのない甲第二号証の二によれば、本願発明の実施例において、桟(44)の垂直両面、プリズムガイド(38)の表面、ガイド表面(28)がテーブルの移動に際して接触する面であることが認められるから、これらはすべて「案内面」というべきものであり、これらの案内面のうち専ら荷重を負担しているのはガイド表面(28)であることが認められるから、本願発明においては、原告ら主張のように「水平移動に導くための案内面は唯一つである」とするのは正確でなく、「案内面のうち荷重を負担する面が唯一つである」というべきものである。

したがつて、本願発明は、全荷重を負担すべき唯一つの面がテーブルの下部狭小側に形成された案内面である点に特徴があるというべきである。

2 第一引用例の技術内容と本願発明の対比について

成立に争いのない甲第七号証によれば、第一引用例に記載のB考案は、フライス盤であつて、垂直固定面(42)を有する作業テーブル(40)が機械ベツド(32)に沿つて水平方向に移動するよう支持されており、その移動の案内となるのは水平案内(34)、(38)であり、このうち全荷重を負担するのは作業テーブル上部狭小側の案内(34)であることが認められる。

したがつて、本願発明とB考案を対比すると、両者は、「工作機械における、水平に移動できるよう配置され、工作物に対し垂直な固定面を有する取付テーブル」である点において一致しており、その相違するところは、「全荷重を負担すべき案内面が、本願発明においては下方の前方張出し案内面であるのに対し、B考案においては上方の案内面(34)である」点にあることになる。

3 第二引用例の技術内容と本願発明の対比について

成立に争いのない甲第八号証によれば、第二引用例には、次のような記載のあることが認められる。

「従来のようにヘツドが自重によつて横架案内面上に乗つて安定している構造にあつては、ヘツドの重量による案内面のたわみとそれに基づくヘツドの傾きとが加工上の精度を悪くすること及びヘツドの重量のために案内面上のヘツドの移動が円滑に行なわれないことなどの欠点があつたが、この欠点を克服するために補助横架を特に設けて、これでヘツドの重量を主として受け、この補助横架の案内面にかかる荷重が横架上の精密直動案内面に伝わらないようにした」旨の記載(第一頁左欄第二〇行~第三九行)

「上向き力の大きさを、ヘツド(3)の重量より大きくすれば、ヘツド(3)は差引き上向き力を受け、下部滑り面(10)に上向きに押しつけられて安定する。」(第一頁右欄第一九行~第二一行)「着力点(19)の位置を、ヘツド(3)の位置に応じて適当に変化させれば、横架の自重によるたわみや………を、上向き荷重による上向きたわみ量を加減することによつて補正することができる。」(第一頁右欄第二一行~第二五行)「ころがり案内面(13)は荷重を負担するのが主目的であり、案内精度はすべり案内面(10)及び(9)で得られるから、ころがり案内面(13)はあまり高精度である必要はない」旨の記載(第一頁右欄第三五行~第三八行)右のような記載によれば、第二引用例に記載のC発明は、ヘツドの重量を横架(1)とは分離してこれと平行に設けた補助横架(11)のころがり案内面(13)で受け、横架(1)の精密直動案内面(9)、(10)にはヘツドの重量の影響が及ばないようにしたものであることが認められる。また、右甲第八号証の図面によれば、補助横架(11)はヘツドの下方においてその重量を受けていることが認められる。

したがつて、本願発明とC発明とを対比すれば、両者は、「工作機械において、水平に移動するものの下方にこの移動体の全重量を負担すべき案内面を設けた」点において一致しており、「移動する物が、本願発明においてはテーブルであるのに対し、C発明では工具取付ヘツドであり、移動する物の下部案内面に対する載置の態様が、本願発明においては直接載置であるのに対し、C発明では転子を介しての間接載置であり、移動する物の重量を負担すべき案内面の構成が、本願発明においては前方に張出して構成したものであるのに対し、C発明では前方に張出したものではなく、横架とは分離してこれと平行に設けた補助横架である」点において相違しているものと認められる。

原告らは、C発明においてはヘツド(3)及び重すい(20)の自重は水平案内面(9)、(10)と補助案内面(13)とに分担され、かつ、切削加工力は本願発明と逆方向に働くため両案内面は力を変動的不安定に支承している点において本願発明と相違する旨主張するが、C発明は案内面(9)、(10)にヘツドの自重の影響が及ばないようにするために補助横架(11)を別設したものであり、垂直方向の全荷重はこの補助横架(11)の案内面(13)によつて負担する旨の記載のあること前示認定のとおりであるから、この点に本願発明との相違を認めることはできない。

4 進歩性の有無について

本願発明とB考案との相違点が、テーブルの重量を負担すべき案内面について、本願発明においてはテーブルの下方の案内面であるのに対し、B考案ではテーブルの上方の案内面である点にあることは既述のとおりである。

他方、C発明においては、水平に移動する物の下側にこの物の全重量を負担する案内面を設けたものが示されていることも既述したとおりである。

したがつて、C発明における水平移動物が本願発明とは異なるヘツドであるとしても、本願発明もC発明も共に工作機械という同一の技術分野に属するものであるから、荷重負担の手段として、B考案における手段に代えてC発明に示されている手段を用いるようなことは、当業者であれば容易になしうることというべきである。

そして、その際に、水平移動する物の案内面に対する載置態様を、直接的とするか間接的とするかは、以下に述べるように、共に慣用技術に属することと認められるから、必要に応じて適宜選択することのできる単なる設計的事項にすぎない。

すなわち、直接的載置が慣用技術に属することは、前掲甲第七号証において作業テーブル(40)やスピンドルボツクス(20)がそれぞれの案内面の上に直接載置されていること及び前掲甲第八号証においてヘツド(3)が横架(1)に対しては上部すべり面(9)において直接載置されており、テーブル(8)もヘツドの上に直接載置されていることによつてこれを認めることができるのであり、間接的載置が慣用技術に属することは、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三の記載によつてこれを認めることができるのである。

また、成立に争いのない乙第二号証によれば、前記案内面を前方に張出した構成とすることも慣用技術に属する事項であることが認められるから、本願発明において特にテーブルの全重量を負担すべき案内面の構成を前方に張出した構成とした点もまた単なる設計的事項にすぎないというべきものである。

この点について、原告らは、「直接載置」「前方張出し部」の点を単なる設計的事項ということはできず、直接載置と間接載置とでは屈曲応力の受け方が相違し、また、乙第二号証の前方張出し部と本願発明のそれとは機能、効果が相違する旨主張するが、直接載置の手段と間接載置の手段にそれぞれ一長一短あることは理の当然であつて、屈曲応力を案内面に平均的に受けさせることを重視して直接載置の手段を採用するか、或いは、移動に際しての摩擦を少なくすることを重視して間接載置の手段を採用するかは、それぞれ機種、使用目的、使用条件などに応じて適宜選択すべき単なる設計的事項にすぎないものである。

また、前方張出し部については、当事者間に争いのない本願発明の要旨(請求の原因二、項)によれば、原告ら主張のような「機械スタンドを上下に移動するブラケツトの一部を形成する」ことが本願発明の要旨とされていないことは明らかであるから、案内面を単に前方張出し部とする程度のことは前掲乙第二号証に示されている慣用手段と何ら異なるところはない。そして、この前方張出し案内面によつて全荷重を受ける結果、加工時、非加工時を問わず、前方に傾倒する力が小さく、テーブルは安全、剛固に支承されるという効果は、右の慣用手段が備えている効果と何ら変るところはないのであるから、これもまた単なる設計的事項にすぎないものというべきである。

原告らは、審決が「単なる設計的問題にすぎない」とした点は理由不備である旨主張するが、「単なる設計的問題」とは、慣用技術をそのまま利用することにより慣用技術として既に備えている機能、効果に比べて格別のものをもたらさないものをいうものと解されるのであつて、審決において「単なる設計的問題である」としているのも、その文言には、「直接載置」「前方張出し部案内面」がそれぞれ慣用技術であるとの趣旨を含んでいるものと理解され得るのであるから、原告らの主張は理由がない。

以上のとおりであるから、本願発明はB考案にC発明の技術を適用することによつて当業者が容易に推考することができたものであり、したがつて、この趣旨のもとに本願発明の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

工作機械において水平に移動できるよう配置され、工作物に対し垂直な固定表面を有する取付テーブルにおいて、テーブル(30)の下部狭小側がガイド表面として形成され、テーブルが前方に張り出した機械のガイド表面(28)の上に載るようになつていることを特徴とする取付テーブル。(別紙第一図面参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙

第一図面

<省略>

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